注釈付き参考文献リスト(annotated bibliography)は、各エントリの後ろに 100〜200 語ほどの短い段落が付いた参考文献リストです。その文献が何を主張しているか、根拠はどれだけ強いか、そして自分の研究にとって何の役に立つかを書きます。引用の付いた読書記録であって、抄録の寄せ集めではありません。
一番早いのは実物を読むことです。以下に実例を全文で載せます。エントリ 3 件と、同じ 1 件をMLA・シカゴの書式に直したものです。
実例
3 件とも、1 つの問い「講義ノートは手書きの方がタイピングより学習効果が高いか」についてのリストから採りました。書式はAPA 7、第一著者の姓のアルファベット順です。紙の上では各文献にぶら下げインデントが付き、注釈はその下に字下げして置かれます。以下の引用ブロックがその字下げの代わりです。
エントリ 1
Mueller, P. A., & Oppenheimer, D. M. (2014). The pen is mightier than the keyboard: Advantages of longhand over laptop note taking. Psychological Science, 25(6), 1159–1168. https://doi.org/10.1177/0956797614524581
学部生を対象にした 3 つの実験で、手書きでノートを取った学生はタイピングした学生より概念問題の成績が良かった。著者はその原因を符号化に求める。手書きは書き写すには遅すぎるので、書き手は講義を自分の言葉に置き換えざるを得ないが、タイピングでは逐語的な書き写しになる、という主張である。一般向けの記事がほぼ例外なく繰り返す「ペンはキーボードより強し」の出所はこの論文だ。ただし限界も効いてくる。標本は 67〜151 名で、 2 つの大学の被験者プールから集められている。最初の 2 つの実験ではテストが講義の直後に行われ、1 週間の遅延を置いたのは実験 3 だけだ。しかもそこで手書きが優位だったのは、事前にノートを見直す機会を与えられた学生に限られる。確定した証拠ではなく符号化仮説の最も強い形での表明として扱い、後述のMorehead et al. (2019)と読み合わせる。
エントリ 2
Morehead, K., Dunlosky, J., & Rawson, K. A. (2019). How much mightier is the pen than the keyboard for note-taking? A replication and extension of Mueller and Oppenheimer (2014). Educational Psychology Review, 31(3), 753–780. https://doi.org/10.1007/s10648-019-09468-2
直接的な追試であり、さらにeWriterを使う群とノートを取らない群を加えて拡張している。見出しになった結果は再現しなかった。手書き有利を示唆する傾向はあったものの、テスト成績はどの群のあいだにも一貫した差は出ず、実験 2 ではノートを取らなかった群とも差がなかった。著者らが直接的な追試をまとめて行ったメタ分析でも、手書きの利得は小さく有意ではない。どちらの方式が優れているかを結論づけるのは時期尚早だ、というのが著者らの結論である。このリストで最も重要な文献であり、レビューを「報告すべき知見」ではなく「未決着の問い」として組み立てざるを得なくさせる。
エントリ 3
Sana, F., Weston, T., & Cepeda, N. J. (2013). Laptop multitasking hinders classroom learning for both users and nearby peers. Computers & Education, 62, 24–31. https://doi.org/10.1016/j.compedu.2012.10.003
問いを「手書きかタイピングか」から「そのノートPCで何をしているか」へ移す論文。 2 つの実験で、講義中にノートPCでマルチタスクをすると本人の理解度が下がり、さらに——ここが目を引く——その画面が視界に入る席の学生の理解度まで下がった。このリストに入れたのは、この分野全体を貫く交絡を名指ししているからだ。「ノートPC」と「手書き」を比べた研究は、符号化の過程ではなく注意の逸れやすさを比べているのかもしれない。教室の運用に直結する含意を持つ結果はこのリストでこれだけで、考察はここから組み立てる。
注釈の各文が何をしているか
働いている注釈は 3 つの動きをします。エントリ 1 はその 3 つを順番にやっています。
| 動き | 答えていること | エントリ 1 での該当箇所 |
|---|---|---|
| 要約する | 何を、どんな根拠で主張しているか | 「学部生を対象にした 3 つの実験で…書き写しになる」 |
| 評価する | どれだけ強いか、どこで止まるか | 「ただし限界も効いてくる…見直す機会を与えられた学生に限られる」 |
| 位置づける | 自分の研究にとって何の役に立つか | 「確定した証拠ではなく…読み合わせる」 |
最初の動きしかしていない注釈は抄録であり、抄録なら採点者はすでに持っています。点が付くのは 2 番目と 3 番目です。手早い判定法があります。自分の研究上の問いを知らない人でも書けてしまう注釈なら、その注釈は何の仕事もしていません。
同じ文献をMLAとシカゴで書くと
変わるのは文献の書式だけで、注釈の文はそのままです。
MLA 9(MLAは注釈付きのリストにAnnotated BibliographyまたはAnnotated List of Works Citedという題を求めています):
Mueller, Pam A., and Daniel M. Oppenheimer. “The Pen Is Mightier Than the Keyboard: Advantages of Longhand over Laptop Note Taking.” Psychological Science, vol. 25, no. 6, 2014, pp. 1159–68, https://doi.org/10.1177/0956797614524581.
シカゴ 18 版・著者年方式(Referencesという見出しの下):
Mueller, Pam A., and Daniel M. Oppenheimer. 2014. “The Pen Is Mightier Than the Keyboard: Advantages of Longhand over Laptop Note Taking.” Psychological Science 25 (6): 1159–68. https://doi.org/10.1177/0956797614524581.
| APA 7 | MLA 9 | シカゴ 18(著者年方式) | |
|---|---|---|---|
| 注釈なしのリストの見出し | References | Works Cited | References |
| 著者名 | 姓+イニシャル | 姓、名はフルで | 姓、名はフルで |
| 年の位置 | 著者の直後、丸括弧の中 | 巻・号の後ろ | 著者の直後、括弧なし |
| 論文タイトル | 文頭のみ大文字、引用符なし | 主要語を大文字、引用符で囲む | 主要語を大文字、引用符で囲む |
| 巻・号 | 25(6) | vol. 25, no. 6 | 25 (6) |
| 著者が 3 名以上 | 20 名まで全員 | 第一著者+“et al.” | 上限まで全員 |
| 注釈の位置 | 段落を改めエントリの下に字下げ | 改行して段落字下げ、またはエントリの後ろに続ける | 改行して字下げ、またはエントリの後ろに続ける |
注意が 2 つ。シカゴには方式が 2 つあります。注記・文献目録方式は見出しがBibliographyで、年は著者の直後ではなく巻・号の後ろの丸括弧に入ります。もう一方が上に示した著者年方式です。そしてIEEEやバンクーバーのような番号方式は、リストをアルファベット順ではなく引用順に並べるので、注釈付き参考文献リストがこれらの書式で組まれることはまずありません。マニュアルは改訂され、学科ごとのローカルルールも乗ります。採点者が持っている指示書がこの表より優先します。
長さ・並び順・種類
- 1 件あたりの長さ。多くの課題は 100〜200 語を求めます。2 文でよい、という課題もあります。この記事も含め、ウェブ上のどの解説よりも課題の指示が優先します。
- 並び順。APA・MLA・シカゴのいずれも第一著者の姓のアルファベット順で、通常の参考文献リストとまったく同じです。MLAは発行年順や主題別に並べることも認めています。それ以外でテーマ別にまとめるのは、そう指示されたときだけ。
- 種類。記述的な注釈は要約するだけ、評価的な注釈はそれに加えて文献を判定し位置づけます。多くの課題は、明記されていなくても評価的な方を求めています。
減点される 4 つの間違い
- 抄録の貼り付け。この種の課題で最も見つかりやすい剽窃で、しかも評価の部分が丸ごと抜けます。
- 自分の研究に一度も触れない注釈。上の判定法を使ってください。
- 書式の混在。1 つの書式を、全エントリに。
- メタデータの誤り。ページ範囲・号数・DOIは、確認が速いぶん採点者が抜き取りで見るところです。
参考文献を打ち直さずに作る
作業の機械的な半分——文献を見つけ、メタデータを正しく保ち、指定の書式で整形する——は自動化する価値があります。注釈のほうにその価値はありません。Litlasでは、その半分がそのまま機能に対応します。
- 保存と注釈を同じ場所で。OpenAlex・Crossref・PubMed・arXivなどのソースを横断して検索し、課題用のボードに論文を保存して、ライブラリでそのアイテムの個人メモへ注釈を書きます。
- 文献の整形。APA・Chicago(著者年)・IEEE・MLA・Vancouverを、論文の保存済みメタデータからciteproc-jsで整形します。書式は一度設定すれば、以後挿入する引用すべてに適用されます。
- ドキュメント上で組み立てる。Litlasのドキュメント(リッチテキストまたはLaTeX)では「ライブラリから引用」で本文中引用と整形済みの文献エントリが一緒に挿入されるので、その下に注釈を書きます。
- 書き出して他所で仕上げる。ライブラリ全体、またはボード 1 つ分を 1 つのBibTeXファイルとして書き出せます。メモはBibTeXの
noteフィールドに載るので、注釈は文献と一緒に届きます。打ち直しは要りません(論文 1 本の「引用」パネルはRISとCSL-JSONでも出せますが、そちらに個人メモは載りません)。
無料プランで課題 1 本ぶんは足ります。ボード 3 個・保存 100 件・検索は 1 日 5 回、カード登録は不要です。
Litlasにできないことも 3 つ挙げておきます。
- 「注釈付き参考文献リスト」を出力する機能はありません。Litlasが持っているのは 2 つの部品——正しく整形された文献と、自分のメモ——で、文書に組み立てるのは自分です。
- シカゴの注記・文献目録方式は 5 つの書式に入っていません。入っているのはシカゴの著者年方式です。課題が注記方式を指定しているなら、そのリストは自分で整形します。
- Litlas自身のAIはありません。✨ボタンは論文をGemini・ChatGPT・Claude・Gemini Notebookの、あなた自身のアカウントへ渡すだけで、Litlasのサーバーで要約が作られることはありません。この課題ではむしろ好都合です。課題の指示を読んでいないモデルが書いた注釈こそ、採点者がまさに目を光らせているものだからです。
注釈付き参考文献リストが課題になるのは、ごまかしが効かないからです。文献リストは「探した」ことを示し、注釈は「読んで、意見を持った」ことを示します。前半は自動化できるところまで自動化して、浮いた分を後半に使ってください。
