「EndNoteとZoteroのどちらにするか」は、たいてい機能の問題ではない。どちらもブラウザや文献データベースから参照を取り込み、PDFを保管し、Wordで書きながら引用を挿入し、投稿先が指定する書式で参考文献リストを整える。1 行ずつ並べて比べても、出てくるリストはほとんど同じになる。
効いてくる違いは構造のほうにある。EndNoteは商用製品で、現在の発行元はClarivate、多くの研究者は所属機関のライセンス経由で使っている。Zoteroは非営利団体Corporation for Digital Scholarshipが開発する無料のオープンソースソフトウェアだ。そこから派生するもの——サポート・費用・データの持ち出しやすさ・誰と組めるか——は、どちらのリストに載っている機能よりも、後から変えるのが難しい。
決めるのは 4 つの問いだ。
1. 自分にEndNoteのライセンスがあるか、壊れたとき誰が直すか
多くの人にとって、価格の問題は自分が答えるものではない。EndNoteの全学ライセンスを持つ大学は多く、その場合は使う側の負担がゼロになるうえ、たいていサポート契約が付いてくる。学内の誰にも直せないときにエスカレーションできるベンダーがいる、ということだ。Zoteroに無いのはこのエスカレーション先である。図書館が開くZoteroの講習もヘルプデスクの対応も珍しくないが、その後ろに契約で縛られた相手はいない。締め切り前の週に引用プラグインの不具合を自分で調べたくないなら、これはどんな機能比較表よりも効く。
ただしその権利は機関のものであって、自分のものではない。所属が変われば、権利も終わるか形が変わる。博士課程を終える、研究室を移る、アカデミアを離れる、更新の判断が別の方向に出る——こうした出来事はプロジェクトの途中に降ってくる。
Zoteroの答えはどの場面でも同じだ。無料で、自宅でも次の所属先でも同じソフトで、離れても何も変わらない。サポートはドキュメントと活発なユーザーフォーラムで、たいてい役に立つが、遅いこともあるし、誰も回答を義務づけられてはいない。
だから図書館に 2 つ聞くとよい。ここでEndNoteはライセンスされているか、所属が終わったら自分のアクセスはどうなるか。後者の答えは機関によって違う。
2. やめるときのコスト
Zoteroはライブラリを自分のディスク上のデータベースに置き、それを読むコードはオープンソースだ。書き出しはRIS・BibTeX・CSL-JSONと一通りそろっており、引用スタイルは他のツールとも共通の公開形式CSLなので、スタイルまで持ち出せる。
EndNoteのライブラリは独自形式で、ライブラリファイルと、それに付いて回るデータフォルダの組で持つ。参照そのものはRISやEndNote独自のXMLで問題なく出せる。うまく移らないのは、そこにぶら下がっているもの——添付ファイル、一部のメモ、相手側のフィールドにきれいに対応しない特殊な資料種別——のほうだ。
しかし乗り換えで高くつくのはライブラリではない。すでに書き始めた原稿のほうだ。EndNoteのCite While You Writeで書いたWord文書にはEndNoteのフィールドコードが入り、Zoteroのアドインで書いた文書にはZoteroのものが入る。これらは相互に変換されない。原稿の途中で乗り換えるなら、その原稿だけ古いツールで書き終えるか、引用をすべて解除して入れ直すかになる。
だからこの比較は後回しにしないほうがよい。両方試すコストは、プロジェクトの初日なら半日、 8 か月目なら引用の貼り直しに 1 週間である。
3. 何で書くか
Word。どちらも書きながら引用を挿入でき、十分に使える。EndNoteが先行している分、研究室で共有されている手順がEndNote前提になっていることは多い。
ジャーナルのスタイル。収録数はどちらも非常に多い。EndNoteの出力スタイルと、Zoteroが使うコミュニティ維持のCSLリポジトリで、件数だけなら後者のほうが大きい。EndNoteの強みは数ではなく供給経路のほうだ。出版社が自社ジャーナル用のEndNoteスタイルファイルを配っていることも多いので、マイナーな指定でもダウンロード 1 回で済むことが多い。CSLに無いときは、CSLが人の編集できるテキストである。問題は、投稿先のスタイルをすでに持っているのがどちらか、である。
Google DocsとLibreOffice。どちらももうWordだけではない。ZoteroにはWord・LibreOffice・Google Docsのプラグインがあり、Windows・macOS・Linuxのいずれでも使える。EndNoteにもバージョン 21 以降はGoogle Docs用のCite While You Writeアドオンがあり(ライブラリをEndNote Webアカウントと同期している必要がある)、Word Online・Apple Pages・OpenOffice Writer・LibreOfficeにも対応する。ただしLibreOffice経路はWindows限定で、32 ビット版のLibreOfficeが要る。それでも違うのは、文書をその間で動かしたときだ。Zoteroには引用を生かしたままGoogle Docs・Word・LibreOffice間を移す「ワープロの切り替え」の手順があるが、EndNoteはClarivate自身の案内として、Word文書のEndNoteのエンコードはGoogle Docsを通すと失われるとしている。共著者がGoogle Docsで書いていて、原稿をWordに戻す必要があるなら、この差だけで決まることもある。
LaTeX。ここは勝負にならない。ZoteroにBetter BibTeXプラグインを入れると、安定した人間可読の引用キーと、ライブラリと同期し続ける.bibファイルが手に入る。EndNoteもBibTeXを書き出せるが、それは書き出しであってワークフローではない。
4. 誰と組むか
EndNoteの共有ライブラリは、相手もEndNoteを持っていることが前提になる。ライセンスのある学科の中では、この前提は見えない。所属をまたぐとき、共著者の大学が別のツールで標準化しているときには、「そちらでライセンスを買えるか」という話になる——共有ライブラリの計画が静かに立ち消えるのは、たいていここだ。
Zoteroのグループライブラリは無料アカウントがあればよく、それ以上は要らない。制約はアクセスではなく容量の側にある。非公開グループのファイルはグループのオーナーの容量から引かれるので、PDFの多い研究室ライブラリはいずれ誰かが有料プランを持つことになる。
実務的な目安はこうだ。所属の外にいる共著者が、誰の許可も要らずに入れられるほうが勝つ。
まとめ
| こういう場合は | こちら |
|---|---|
| 所属機関がライセンスを持ち、当面そこにいて、窓口もほしい | EndNote |
| 投稿先がEndNoteスタイルを配っていて、Wordで書く | EndNote |
| LaTeXで書く | Zotero + Better BibTeX |
| 共著者が所属の外にいる、または原稿がGoogle DocsとWordの間を行き来する | Zotero |
| 所属がどうなってもライブラリを手元に残したい | Zotero |
どちらも作られていない仕事
どちらもライブラリであり、どちらも良いライブラリだ。すでに見つけたものを保持し、正しい書式の参考文献リストに変える。共通しているのは、その手前の工程についてほとんど何も言わないことだ。重要な論文が 1 本あって、それが何の上に乗っているのか、その後誰が反論したのかを知りたいとき、どちらもたいして助けてくれない。EndNoteは参照からWeb of Scienceの関連レコードと被引用文献へリンクするが、所属機関が購読している場合に限られるうえ、外へのリンクであって、たどれるグラフではない。結局また検索窓に戻ることになる。
引用グラフ系のツールは、その工程のためにある。Litlasもそのひとつで、公開されている複数の文献ソース(OpenAlex・Crossref・arXiv・PubMed・DBLPなど)をまとめて検索し、論文の参考文献側と被引用側を左右に展開するグラフを開き、残す論文には自分のメモを付けてライブラリに入れる。BibTeXとRISは双方向なので、EndNoteやZoteroをやめて移行しなくても隣に置けるし、引用スタイルはAPA・Chicago(author-date)・IEEE・MLA・Vancouverに対応する。
できないことも書いておく。比較記事では、機能よりそちらのほうが効くからだ。
- Wordプラグインは無い。「Wordで書きながら引用を挿入する」が要件なら、EndNoteとZoteroはそれができて、Litlasはできない。エディタ(Markdown・ブラウザ内でコンパイルするLaTeX・リッチテキスト)はブラウザの中にある。
- サイトライセンスは無い。大学がすでに買っている状態は作れず、対応できるヘルプデスクもない。
- オフラインのデスクトップ版は無い。EndNoteとZoteroは機内でも使えるデスクトップアプリだ。Litlasはブラウザで動き、Chrome拡張機能もストアではなくダウンロードしたZIPから入れる。
- システマティックレビュー用の機能は無い。スクリーニングの仕組みもPRISMA図も無い。
- AIボタンは要約ではなく受け渡しだ。論文をGemini・ChatGPT・Claude・Gemini Notebookで開くだけで、Litlas自身はモデルを動かしていない。
- 無料プランはカード登録なしで使えるが、検索・グラフ表示・AIへの受け渡しには 1 日あたりの回数上限があり、保存できる論文とボードの件数にも上限がある。
半日で決める手順
- 1 節の 2 つの質問を図書館にメールする。これだけでほとんど答えが出る。
- 自分が何で書いているかを見る。LaTeXならZotero、原稿がGoogle DocsとWordの間を行き来するならZotero、Wordで出版社配布のEndNoteスタイルを使うならEndNote。
- 共著者が誰かを見る。自分の好みより、所属の外にいる共著者のほうが結論を決めることが多い。
- そのうえで試す。同じ 20 件を両方に取り込み、それぞれ引用付きで 1 段落書いてみる。イラッとしなかったほうが答えでよい。
- 別の問いとして、自分の困りごとが「論文を持っておくこと」なのか「論文を見つけること」なのかを考える。後者は、どちらのツールも解いてくれない。
