ZoteroとMendeleyの比較記事はたくさんあるが、たいてい同じ 20 個の機能を並べて終わり、読み終えても判断がつかない。実際この 2 つは基本機能がほぼ重なっている。ブラウザから文献を取り込み、PDFを保管し、ワープロに引用を挿入し、投稿先の指定するスタイルで参考文献リストを整える——どちらもできる。
つまり選択は機能の多寡では決まらない。本当に違っていて、しかも後から変えるのが高くつく 4 点だけを見ればよい。
1. 誰が作っているか
Zoteroは非営利団体Corporation for Digital Scholarshipが開発している。オープンソースで、データ形式も公開されている。仮に組織が消えても、手元に残るのは読める形式のSQLiteデータベースであり、ライブラリを取り出せる。
Mendeleyは学術出版最大手のひとつであるElsevierが所有している。日々の作業に影響が出ることはまずないが、出版社の寡占について立場がある場合、所属機関が方針を持っている場合、あるいは 2022 年 9 月にMendeley Desktopのダウンロード提供が打ち切られ、Mendeley Reference Managerへの移行を促されたことを覚えている場合には、判断材料になる。この判断はその後緩められ、2025 年にElsevierはMendeley Desktopを「今後も残す」と表明した(ただし保守のみで新機能開発は無い)。いずれにせよ「その種の決定がプロジェクトの途中で降ってくるコスト」は見積もっておく価値がある。
これは技術ではなく価値観の問題で、最初に答えておくと残りの比較が短くなる。
2. 無料ストレージは同じ土俵ではない
だいたい 1 年半ほど使ったところで、多くの人がここで詰まる。
- Zoteroの無料枠は 300 MB。分野にもよるがPDFにして 100〜200 本ほど。
- Mendeleyの無料枠は 2 GB。何も考えずに使える余裕がはっきり大きい。
ただしZotero側には重要な逃げ道がある。メタデータだけをZoteroのサーバで同期し、PDFの実体は別の場所に置くという運用ができる(大学のファイルサーバや、自分で契約したクラウドストレージが同期しているフォルダなど)。これを扱うためのコミュニティ製プラグインもある。つまりZoteroの 300 MBは見た目より柔らかい上限で、代わりに多少の設定作業が要る。
ストレージの配管について一切考えたくないなら、Mendeleyの無料枠のほうが単純に大きい。
3. 拡張性、そしてLaTeXの問題
実務上いちばん差が出るのがここ。
Zoteroには本物のプラグイン生態系がある。決め手になることが多いのはBetter BibTeXで、これを入れると引用キーが安定した人間可読な形(smith2024attentionのような、自分で決めた書式)になり、.bibファイルがライブラリと同期し続ける。LaTeXで書く分野では、この組み合わせがほぼ標準の手順になっている。
Mendeleyに同等のプラグイン生態系は無い。Mendeley Reference ManagerもBibTeXの書き出しはできるが、出てくるのは一度きりのファイルで、.bibをライブラリと同期させ続ける設定は無い。引用キーも著者名+年の固定の形で自動生成され、自分で書式を決めることはできない(旧Mendeley DesktopにはBibTeX同期の設定があったが、そちらは保守のみになっている)。ワークフローが少し違うときに自分で拡張する手段も無い。
目安:
- LaTeXやOverleafで書く → ほぼ議論の余地なくZotero + Better BibTeX
- Wordで書いて、余計なことを考えたくない → どちらでもよい。Mendeley Citeはよくできている
4. 共同作業とグループライブラリ
どちらも共有ライブラリを持つが、形が違う。
- Zoteroはグループの人数に上限が無い。ただしグループに置いたファイルはグループ所有者の容量を消費し、公開・参加自由のグループはそもそもファイル共有ができない。大きな共有ライブラリには誰かが有料プランを持つ必要がある。
- Mendeleyは無料プランでも非公開グループを作れるが、上限がある。作れるのは 5 個まで、 1 グループあたり 25 人まで、共有容量は全グループ合計で 100 MB。
2 人で 1 本書くならどちらでも困らない。研究室全体の共有ライブラリにするなら、誰の容量で回すのかを先に決めてから標準化したほうがよい。
まとめ
| こういう人は | こちら |
|---|---|
| LaTeXで書く | Zotero + Better BibTeX |
| 設定なしで無料容量がほしい | Mendeley |
| オープンソース・非営利であることを重視する | Zotero |
| ワークフローを自分で拡張したい | Zotero |
| Wordアドインがきれいに動けば十分 | どちらでも |
どちらも解けない問題
2 つに共通していて、しかも多くの研究者が結局もう 1 つ別のツールを併用することになる理由がある。
ZoteroもMendeleyもライブラリである。すでに見つけた論文を保持し、正しい書式の参考文献リストに変えることに関しては優秀だが、次の論文を見つけるようには作られていない。重要な論文が 1 本あって、それが何の上にbuildされたのか、その後誰が引き継いだのかを知りたいとき、どちらのツールも黙っている。結局、検索エンジンに戻ってやり直すことになる。
その隙間にあるのが引用グラフ系のツールで、Litlasもそのひとつ。複数のソースを横断して検索し、論文のまわりの引用グラフを開いて参考文献側へ遡ったり被引用側へ辿ったりして、必要なものを自分のメモ付きでライブラリに保存できる。BibTeXとRISの入出力に対応しているので、ZoteroやMendeleyを捨てて移行する必要はなく、隣に置いて使える。引用スタイルはAPA・Chicago(author-date)・IEEE・MLA・Vancouverに対応している。
できないことも明記しておく。LitlasにWordプラグインは無いし、システマティックレビューの専用ツールでもない(スクリーニング機能もPRISMA図も無い)。「Wordで書きながら引用を挿入したい」が要件なら、ZoteroとMendeleyはそれができてLitlasはできない。
10 分で決める手順
- 「誰が作っているか」に答える。オープンソースであることが大事ならそこでZoteroに決まる。
- LaTeXを使うかどうかを確認する。使うならZotero + Better BibTeX。
- どちらも当てはまらないなら、両方入れて同じ 20 本を取り込み、引用付きで 1 段落ずつ書いてみる。イラッとしなかったほうが正解でよい。残りの差は本当に小さい。
- 別の問いとして、自分の本当の困りごとが「論文の管理」なのか「論文を見つけること」なのかを考える。後者なら、どちらのブランドの文献管理ソフトを選んでも解決しない。
