論文検索AIは、どれも収録件数を最初に掲げます。1 億 3,800 万件、2 億件、3 億 1,000 万件。数値が並んでいるので、そのまま比較できる仕様に見えます。しかし、この数値の比較は成り立ちません。
数え方が各社で違います。掲げている会社の外部で監査した例もありません。そのうえ、複数のサービスが同じ元データを重ねて数えています。選ぶときに役立つのは、そのサービスがどの種類の機能を提供しているかです。種類によって、そのサービスから得られるものが決まります。
収録件数の数え方はサービスごとに違う
2026-08-22 の時点で、各社が自社について述べていた内容です。
| サービス | 自社が掲げる数値 | その数値が指すもの |
|---|---|---|
| Semantic Scholar | Aboutページでは 2 億件、APIページでは 2 億 1,400 万件 | 出版社との提携・データ提供元・Webクロールから索引した論文 |
| Elicit | 論文 1 億 3,800 万件と臨床試験 54 万 5,000 件 | Semantic Scholar・PubMed・OpenAlexから取得し、重複を除いた後の検索対象 |
| Consensus | 2 億件 | 学術文献。大半が査読付き論文で、国際会議の論文とプレプリント(査読前論文)も含みます |
| ResearchRabbit | 3 億 1,000 万件 | どのデータベースによるものかは書かれていません |
| Connected Papers | 「数億件」 | ライセンスを受けているSemantic Scholarのコーパス |
この表から、2 つのことがすぐに読み取れます。
同じ会社が、粒度の違う 2 つの数値を掲げています。Semantic ScholarはAboutページで「2 億件を超える学術論文」と述べ、APIページでは 2 億 1,400 万件というカウンタを表示しています[6]。2 億 1,400 万件は「2 億件を超える」に収まるので、この 2 つは矛盾していません。ここから分かるのは、同じ会社の中でも、数え直した時点と丸め方が面ごとに違うということです。他社が 1 つだけ掲げている数値も、同じ幅を持っていると考えてください。
各社のデータは重なっています。Elicit・Consensus・Connected PapersはいずれもSemantic Scholarをもとに作られており、ElicitとConsensusはOpenAlexも使っています。計算の中身を説明しているのはElicitだけです[3]。同社の取得元は、Semantic Scholarが 2 億件以上、OpenAlexが 2 億 4,300 万件、PubMedが 3,300 万件以上を掲げており、合計はそれよりはるかに大きくなります。1 億 3,800 万件は、重複した記録と不完全な記録を除いた後に残った数です。つまり、この一覧で最も小さい数値が、最も明示的な方法で作られた数値です。他社の大きな数値は、単に重複を引いていないだけかもしれません。
収録件数は、たまたま事実である宣伝文句として扱い、別の基準で選んでください。
サービスを 3 つの種類に分ける
1. 索引:論文の一覧を返す
Semantic Scholarが最も分かりやすい例です。非営利研究機関Ai2が運営する無料の検索サービスで、コーパスをオープンデータセットとAPIとしても公開しています[5]。他のいくつかのサービスは、これをもとに作られています。Connected Papersはライセンスを受けており、ElicitとConsensusも取得元に含めています。
索引が返すのは論文の一覧です。質問には答えません。この点は、正確さが必要な場面では利点になります。論文と読者のあいだに、内容を言い換える段階が 1 つも入らないためです。
2. 回答エンジン:質問に文章で答える
ElicitとConsensusは、先に検索し、そのあとで文章を生成します。Consensusは自社の検索を、質問の意図をとらえるための埋め込みによる意味検索と、BM25によるキーワード検索を組み合わせたものだと説明しています[2]。Elicitは、生成した主張に対して文単位で出典を示すと述べており、関連する論文を最大 1,000 本まで見つけ、最大 2 万件のデータ点を一度に分析できるとしています[3]。
この種類のサービスが返すのは、出典の付いた段落です。ただし、返ってくる内容は、尋ねた範囲に限られます。
3. 関係図:関連する論文を並べる
Connected PapersとResearchRabbitは、質問ではなく、すでに手元にある論文から出発します。Connected Papersは自社の方法を明示しています。これは引用関係をそのままたどった図ではありません[1]。類似度は共引用と書誌結合から計算します。つまり、参考文献リストと引用してきた論文が大きく重なる 2 本は、関連する主題を扱っている可能性が高いとみなす、という考え方です。結果は力学モデルによるグラフとして配置されます。1 つのグラフを作るために約 5 万本を解析し、出発点の論文と最も強く結びついた数十本を選びます。ResearchRabbitは出発点にする論文から動き、無料プランではその論文を 50 本まで使えると述べています[4]。
この種類のサービスが返すのは、出発点の論文と近い論文の集まりです。出発点になる論文が 1 本も無ければ使えません。
種類ごとに、構造上取りこぼすもの
| 種類 | そのサービスから得られないもの |
|---|---|
| 索引 | 論文を読むこと。一覧を受け取って作業するのは自分です。内容が言い換えられていないことを確実にしたい場面では、これが正しい引き換えです |
| 回答エンジン | 尋ねようと思わなかったことを知ること。答えの境界は、質問の境界と同じです |
| 関係図 | 何も無い状態から始めること。また、類似度は引用ではないため、自分の論文を直接引用している論文が図の外に出ることも、まったく言及していない論文が中に入ることもあります |
最後の行が、最も誤解されやすい点です。しかもConnected Papers自身が自社のページで明言しています[1]。「この論文をその後どの論文が引用したか」を知りたいなら、類似度による関係図はその用途に合いません。必要なのは引用の関係そのものです。
回答エンジンには、設計では避けられない弱点がもう 1 つあります。生成の前に検索を実行することで、存在しない出典は防げます。しかし、実在する論文を読み違えることは防げません。Consensusも自社製品についてそう述べています[2]。回答エンジンでは存在しない出典が構造上生まれないので、読者が実際に出会う誤りはこの読み違えになります。どう現れ、どう確かめるかは別の記事でご紹介しました。
選び方
- 網羅性を保証したい場合、たとえばシステマティックレビューの検索では、索引を使い、検索式を記録してください。回答エンジンに投げた質問文は、あとから同じ結果を再現できる検索戦略にはなりません。
- その分野を知らず、全体像をつかみたい場合は、回答エンジンが最も速い入口です。そのうえで、挙げられた論文を自分で確認してください。
- 良い論文が 1 本あり、その近くにある研究を見たい場合は、関係図を使います。
- ある結果をその後誰が発展させたかを知りたい場合は、類似度による関係図ではなく、引用を前向きにたどってください。
多くの人は複数のサービスを併用することになります。ゆえに、収録件数の重要度は見た目より低くなります。選んでいるのは 1 つのデータベースではなく、いま自分がいる工程に合うサービスです。
検索と引用たどりを 1 か所でまとめる方法
Litlasは、上の工程のうち後半の 2 つを中心に、読む作業と書く作業をつないだサービスです。
16 の学術ソース(OpenAlex・Crossref・DataCite・OpenCitations・ROR/ORCID・arXiv・DBLP・OpenReview・ACL Anthology・PubMed・PMC Open Access・DOAJ・CORE・OpenAIRE Graph・Unpaywall・Common Crawl)を 1 回の検索で横断します。照合の対象は表題・著者・DOI・掲載誌で、掲載誌や会議・著者・出版年で絞り込めます。論文の引用グラフを開けば、引用の関係そのものを両方向で確認できます。つまり、その論文が何を引用し、その後どの論文に引用されたかです。残した論文はボードへ入れて自分のメモとタグを付けられ、BibTeX・RIS・CSL-JSONで書き出せます。
読む工程では、✨ボタンがその論文をそのままChatGPT・Claude・Gemini・Gemini Notebookのいずれかへ、プロンプトを用意した状態で新しいタブに渡します。読む相手は、自分がすでに信頼しているモデルです。同じ論文を 2 つのモデルに渡して比べることもできます。
無料プランはカード登録なしで今すぐ使えます。
覚えておくべき 3 つのこと
- 収録件数の比較は成り立ちません。数え方が違い、複数のサービスが同じ元データを売り直しており、Semantic Scholarは自社について粒度の違う 2 つの数値を掲げています。
- サービスの種類で選んでください。網羅性なら索引、全体像なら回答エンジン、近くにある研究なら関係図、何が発展したかを知りたいなら引用の関係そのものです。
- 類似度は引用ではありません。Connected Papersは引用関係をそのままたどった図ではないと明言しているので、「この論文を誰が引用したか」を関係図で答えないでください。
参考文献
- Connected Papers. About. https://www.connectedpapers.com/about, (参照 2026-08-22).
- Consensus. How Consensus Works. https://framer.consensus.app/home/blog/how-consensus-works/, (参照 2026-08-22).
- Elicit. Elicit’s Source for Papers. Elicit Help Center. https://support.elicit.com/en/articles/14758040-elicit-s-source-for-papers, (参照 2026-08-22).
- ResearchRabbit. Pricing. https://www.researchrabbit.ai/pricing, (参照 2026-08-22).
- Semantic Scholar. About Semantic Scholar. https://www.semanticscholar.org/about, (参照 2026-08-22).
- Semantic Scholar. Semantic Scholar Academic Graph API. https://www.semanticscholar.org/product/api, (参照 2026-08-22).
