文献調査

分野別の被引用半減期:4 億件の引用で測った 26 分野

論文が引用されるとき、その論文は何歳になっているのでしょうか。19,379,997 本の論文と 413,582,341 件の引用で測りました。芸術・人文学は 13.3 年、数学は 12.5 年たってから引かれ、エネルギーは 5.0 年、工学は 5.8 年で引かれます。26 分野の一覧と、その差がどこから来ているのかをご紹介します。

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論文が引用されるとき、その論文は何歳になっているのでしょうか。引用は 2 本の論文をつなぐ線であり、その両端にはそれぞれ刊行年が付いています。一方から他方を引けば、引用された瞬間にその論文が何歳だったかが分かります。

Litlasのコーパスで、引用する側と引用される側の両方が手元にある 413,582,341 件の引用について、この計算を行いました。答えは分野によって 2.7 倍違います。芸術・人文学の論文は刊行から 13.3 年、数学は 12.5 年たってから引かれます。いっぽう、エネルギーは 5.0 年、工学は 5.8 年、計算機科学は 5.9 年で引かれます。26 分野の一覧を先にご紹介します。そのあとで、この差がどこから来ているのかを順に見ていきます。

分野によって、論文が引用されるまでの年数は 2.7 倍違います

引用 1 件ごとに、引用する側の刊行年から引用される側の刊行年を引きます。この差を引用の年齢と呼びます。引用を、引用された側の論文の分野でまとめて中央値を取ると、その分野の被引用半減期(cited half-life)になります。計量書誌学(引用や刊行のデータを数えて文献を分析する分野)で使われている統計量です。ClarivateはこれをJournal Citation Reportsのために雑誌ごとに算出しており、同社の定義は「その年に雑誌が受けた引用の年齢の中央値」です。私たちは同じ統計量を、雑誌ごとではなく分野ごとに、また 1 年分ではなく全期間をまとめて計算しました。

分野 中央値 中央の半分 集計した引用
エネルギー 5.0 2.7〜9.0 1,223,442
工学 5.8 3.0〜11.3 33,493,894
計算機科学 5.9 3.0〜11.1 81,232,919
材料科学 6.2 3.3〜11.4 6,183,745
免疫学・微生物学 6.2 3.2〜11.5 11,021,388
医学 6.4 3.2〜12.0 99,042,289
生化学・遺伝学・分子生物学 6.4 3.3〜11.9 66,835,145
薬理学・毒性学 6.4 3.3〜12.3 2,032,180
歯学 7.0 3.5〜13.4 1,583,220
看護学 7.1 3.6〜13.3 2,990,452
環境科学 7.1 3.6〜13.3 8,694,202
保健医療専門職 7.2 3.6〜13.3 4,946,999
農学・生物学 7.4 3.7〜13.9 10,723,207
化学工学 7.6 3.4〜17.5 437,045
神経科学 7.6 3.9〜13.7 22,636,835
社会科学 7.9 3.9〜15.0 10,631,153
化学 8.0 3.8〜15.9 4,464,569
経営学 8.5 4.3〜15.1 5,394,112
獣医学 8.6 4.1〜15.8 305,977
物理学・天文学 8.7 4.0〜17.5 7,534,212
意思決定科学 8.9 4.3〜16.7 6,441,633
心理学 8.9 4.3〜16.5 11,391,772
地球惑星科学 9.3 4.5〜17.2 3,410,810
経済学・金融 10.1 4.6〜19.6 3,032,591
数学 12.5 5.4〜24.2 6,168,418
芸術・人文学 13.3 6.0〜25.1 1,730,132

「中央の半分」は 25 パーセンタイルから 75 パーセンタイルまでの範囲です。パーセンタイルは論文単位ではなく引用単位で取っているので、被引用数 500 の論文は 500 件ぶんの観測として数えられます。数学の行は次のように読みます。数学の論文が受けた引用の半分は、刊行から 12.5 年以上たってからのものです。そのうち 4 分の 1 は、24.2 年以上たってからのものです。

速い側の端が 5.0 年、遅い側の端が 13.3 年で、開きは 2.7 倍です。また、JCRが公表する被引用半減期の上限は 10 年で、それを超える値は「>10」と表示されます。ここに並んだ 26 分野のうち、経済学・金融、数学、芸術・人文学の 3 つがその上限を超えています。

この年数は、先行研究を何年前まで遡って集めるかの目安にもなります。数学や芸術・人文学であれば刊行から 10 年以上たった論文がいまも引かれているので、直近の数年だけを見ると土台になった研究を落とします。遡る範囲を決めたあと、何本まで広げてどこで絞り込むかの手順は、卒論の先行研究の探し方にご紹介しています。

この差は、コーパスの作り方では説明できません

分野の差には別の説明が付くかもしれません。Litlasは世の中のすべての論文を取り込んでいるわけではなく、計算機科学と生物医学系の分野は被引用 10 件から、それ以外の分野は被引用 200 件からコーパスに入ります。どちらのしきい値もデータソースのページに掲載しています。多くの分野が被引用 200 件を超えて初めて入るのであれば、その分野を代表しているのはよく引用された論文だけです。そして、よく引用された論文は長く引かれ続けます。この筋書きが正しければ、分野の差は分野そのものの性質ではなく、コーパスの作り方が生んだ人工物ということになります。

しかし、この説明は表を見るだけで否定できます。最も速いエネルギーの 5.0 年、2 番目に速い工学の 5.8 年、そして材料科学の 6.2 年は、いずれも被引用 200 件のしきい値の側に在ります。数学の 12.5 年と芸術・人文学の 13.3 年も同じ側です。しきい値が長い引用年齢を作り出しているのなら、そのしきい値の側に在る分野すべてで長くなるはずです。

対照群も直接作りました。すべての分野を同じ被引用 200 件の水準にそろえて表全体を計算し直し、計算機科学と医学にも他分野と同じ条件を課しました。中央値の動きは上下いずれも最大で 2 年にとどまり、最も速い分野と最も遅い分野の距離は縮みませんでした。少なくとも、収録のしきい値がこの差を作り出しているのではありません。

分野の順序は小さい標本でも再現しますが、年数は再現しません

同じ計算を約 4,100 本の標本で行うと、年数はまったく合いません。

分野 標本 4,100 本 全量 過大の倍率
計算機科学 9 5.9 1.5 倍
医学 11 6.4 1.7 倍
生化学・遺伝学・分子生物学 12 6.4 1.9 倍
材料科学 15 6.2 2.4 倍
物理学・天文学 23 8.7 2.6 倍
数学 25 12.5 2.0 倍
心理学 25 8.9 2.8 倍
工学 27 5.8 4.7 倍
芸術・人文学 32 13.3 2.4 倍

どの分野も実際より長く出ており、倍率の中央値は 2.4 倍、最大は 4.7 倍でした。数千本の標本では、この年数を推定できません。中央値を決めているのは古い引用の長い裾であり、この規模の標本には、その裾を置くだけの件数が入っていないからです。

いっぽう、分野の順序はおおむね残ります。9 分野から 2 つずつ取り出すと 36 通りの組み合わせになり、標本と全量のあいだで、順序が保たれたものが 26 通り、逆転したものが 9 通り、同順だったものが 1 通りでした。ケンドールの順位相関係数(2 つの順位がどれだけ一致しているかを−1から+1までの値で表す指標)のタウbは+0.48です。逆転した 9 通りのうち 7 通りは、工学 1 分野が絡んでいます。標本は工学を 27 年として遅い側に置きましたが、全量では 5.8 年で、速いほうから 2 番目に入りました。工学を除くと、残り 28 通りのうち逆転は 2 通りだけです(タウbは+0.84)。その 2 通りは、医学と生化学の 6.4 年に対する材料科学の 6.2 年で、差は 0.2 年しかありません。これより離れている組み合わせは、すべて順序を保ちました。

つまり、自分の手元にある小さな標本で確かめ直せるのは、年数ではなく順序のほうです。

この表が測っている範囲

両端がコーパスに入っている引用だけを数えています。コーパスの各論文には、その論文が受けた被引用数の合計が記録されており、全体で足すと 1,516,896,516 件です。一方、引用する側と引用される側の両方がコーパスに入っている引用は 413,996,658 件で、両端が見えている割合は 27.3%になります。残りの 72.7%はコーパスに無い論文を指しており、その相手側には刊行年も分野も無いので、計算に入れられません。入れられたとしたら結果がどちらへ動くのかも、私たちには言えません。見えている部分が内部で矛盾していないことは、2 つの照合で確かめました。各論文が持つ年別の被引用の記録を全体で足すと 413,952,032 件で、引用リンクの本数との差は 0.011%です(差の正体は刊行年を持たない論文からの引用です)。年別の記録を持つ 14,083,496 本のうち、記録の合計がその論文を指すリンクの本数と一致したものは 99.73%でした。

引用先にできる古い論文が少ないコーパスです。1990 年より前に刊行された論文はコーパスの 6.33%しかなく、2015 年以降のものが 53.71%を占めます。引用が計算に入るのは両端がコーパスに在るときだけなので、遡れる過去の長さは構造的に短くなります。上の表は、このコーパスについての測定値です。文献全体の真の半減期の推定値ではありません。

1 本の論文が持つ分野は 1 つで、表に入るのは引用された側の分野です。医学の論文が物理学の論文を引用した場合、その引用は物理学の行に 1 件だけ入ります。したがって学際的な研究は 1 つの見出しの下に置かれ、独立した区分としては現れません。さらに、分野をまったく持たない論文がコーパスの 9.87%にあたる 1,913,334 本あり、その論文が受けた引用は表に入っていません。

同じ計算をやり直す手順

上の表は、2026-08-22 時点のコーパスを 1 回走査して得た値です。結果は 1 種類の集計だけに依っているので、その集計を正確に書いておきます。

  • 引用の年齢は、引用する側の刊行年から引用される側の刊行年を引いた値です。
  • 両端がコーパスに在る引用すべてについて、(引用された側の分野、年齢)の組ごとに 1 つずつ数えます。合計 413,582,341 件で、両端が見えている引用の 99.90%にあたります。残りが落ちた理由は、引用された側の論文が刊行年か分野を持っていないことです。
  • パーセンタイルは論文単位ではなく引用単位で取ります。被引用数 500 の論文は、その分野の行へ 500 件ぶんの観測を出します。
  • 年齢がkの引用は、kからk+1までの 12 か月のどこかに在るものとして扱い、パーセンタイルは境目をまたぐ区間の内側で線形に補間します。JCRが被引用半減期を算出する方法と同じで、表の値が整数ではなく小数第 1 位まで在るのはこのためです。補間せずに、累積が半分を超えた最初の整数年を取ると、表の両端は 5.0 年と 13.3 年ではなく 4 年と 13 年になります。片方の端を一方の規約で、もう片方の端をもう一方の規約で引くと、誰も再現できない範囲ができあがります。
  • 年齢が負になる引用(引用する側の刊行年が、引用される側より前になっているもの)も落とさずに数え、負でないすべての年齢より下に置きます。表全体の 0.88%にあたります。プレプリントや版を持つレコードを含むコーパスでは通常起こることです。
  • 重み付け、年ごとの正規化、集計年の打ち切りはいずれも行いません。コーパスに在るすべての引用年を 1 つの表にまとめます。

分母になる 2 つの数、すなわち論文 19,379,997 本と引用リンク 413,996,658 件はデータソースのページに掲載しています。どちらも同じビルドの成果物から読み取ったので、2 つの別々のコーパスの数字が混ざることはありません。

年齢が負の引用を落とすかどうかは、この手順のなかで判断が分かれうる唯一の箇所です。落として計算し直すと、芸術・人文学は 13.3 年から 14.0 年へ、数学は 12.5 年から 12.9 年へ、経済学・金融は 10.1 年から 10.5 年へ動きます。速い側は、小数第 1 位で見るかぎり動きません。負の年齢が分野に均等に散らばっていないためで、表全体では 0.88%ですが、芸術・人文学の論文が受けた引用では 4.30%に達します。これは全分野で最も高い比率です。つまり、落とすと最も遅い分野が最も得をします。上の表がこの分を残しているのは、そのためです。なお、順序はほとんど動きません。 2 つの規則で 26 分野を 2 つずつ比べると 325 通りになりますが、そのうち 321 通りで順序が保たれ、逆転は 4 通りだけです。

Litlasで引用グラフをたどる

Litlasでは、16 の学術ソースを 1 回の検索で横断できます。任意の論文について引用グラフを開き、その論文が土台にした研究へ後ろ向きに、その後どうなったかへ前向きにたどれます。残すと決めた論文は、自分のメモを付けたままライブラリへ保存できます。書き始めるときには、その引用をBibTeXやRISで書き出せます。

上の表は、読む時間をどちらに使うかの目安になります。遅い側に在る分野では、 10 年前の研究がいまも周囲で引かれており、それを限定したり拡張したりした論文は何年も離れて出ています。ゆえに、丁寧に 1 巡する価値があるのは前向きのほうです。速い側に在る分野では、後ろ向きの調査は早く終わります。訂正が書かれているのは前向きの論文のほうです。

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参考文献

データと引用

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この記事を引用するときの表記:

Litlas (2026). 分野別の被引用半減期:4 億件の引用で測った 26 分野. https://litlas.ai/ja/blog/citation-half-life-by-field