文献調査

研究テーマの決め方:先行研究が答えていない問いを、足りない理由から見つける

研究の空白とは、すでにある研究が答えられていない問いのことです。システマティックレビューの分野で使われている 4 つの理由、「今後の課題」の節を出発点として使う方法、そして引用をたどって空白がまだ残っているかを確かめる手順をご紹介します。

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研究の空白とは、誰も書いていない話題のことではありません。誰も書いていない話題は、たいていの場合、誰も必要としていない話題です。空白とは、すでにある研究が答えられていない問いのことです。そして重要なのは、なぜ答えられていないのかを言い当てることです。

その「なぜ」の部分は、多くの解説が飛ばしています。しかし、漠然とした新規性の感覚を、研究計画書に書ける問いへ変えるのは、まさにこの部分です。

「今後の課題」の節は出発点として使う

よくある助言は、レビュー論文の「今後の課題」の節を読んで、そこから自分の問いを取る、というものです。ところが、その節が実際にどれくらい使えるのかを測った結果は、その助言を支持していません。

Clarkeらは、コクランレビュー 2,535 件を調べました[2]。コクランレビューには「研究への示唆」という専用の節があるので、この点では恵まれた対象です。それでも 12%のレビューは、研究上の問いの基本となる 3 つの要素、つまり対象集団・介入・アウトカムを 1 つも書いていませんでした。3 つすべてを書いていたレビューは、約 17%にとどまります。

Robinsonらが米国のEvidence-based Practice Centerによる報告書 12 件を調べたときも、同じことが起きていました[5]。研究の空白をどのような手順で特定したのかを説明していた報告書は、1 件もありませんでした。

したがって、「今後の課題」の節を見に行くこと自体は正しい手順です。ただし、そこに答えが用意されているわけではありません。以下では、その足りない部分を埋める枠組みをご紹介します。

空白について必ず書くべき 2 つのこと

Robinson・Saldanha・Mckoy[5]は、要素をちょうど 2 つ持つ枠組みを提案しました。空白がどこに在るのかを特定し、そのうえで理由を書く、という 2 つです。両方が必要です。理由の無い特定は、ただの話題です。特定の無い理由は、ただの不満です。

特定にはPICOSを使います。PICOSとは、対象集団(Population)・介入(Intervention)・比較対照(Comparison)・アウトカム(Outcome)・研究の設定(Setting)という 5 つの英単語の頭文字を並べた語で、臨床研究の問いを組み立てるときに使われる枠組みです。

PICOSの 5 つの軸で、どこが足りないかを書く

この 5 つの軸に沿って空白を書き、既存の研究がどの軸を扱えていないのかを述べます。「75 歳以上を対象にした研究が無い」と書けば、これは対象集団の空白です。「どの試験もプラセボとしか比較しておらず、実際に処方されている薬と比べていない」と書けば、これは比較対照の空白です。

この 5 つは、空白を書くための軸であって、空白の種類ではありません。この区別は重要です。二次的な解説では、PICOSがそのまま「Robinsonが挙げた 5 種類の研究の空白」として紹介されることがあります。これは読み違えであり、しかも枠組みのうち実際に働く半分を落としてしまっています。種類にあたるのは、次の 4 つです。

足りない理由を 4 つから選ぶ

理由 あてはまる状況
情報が不足している、または精度が低い 研究が無い、少ない、あるいは標本が小さい。効果の信頼区間が広く、優位とも劣位とも取れる場合も含みます
情報に偏りがある 個々の研究にバイアスのおそれがある、研究デザインが適していない、あるいは出版バイアスや選択的アウトカム報告のように、証拠全体に生じる問題がある
結果が一致しない、または一致するかどうか分からない 効果の向きや大きさが研究どうしで食い違う。研究が 1 件しか無い場合もここに入ります。1 件では、一致するかどうかを判断できません
求めている情報ではない 結果が、自分の関心のある集団や設定に当てはまらない。アウトカムが本来知りたいものではなく代替指標である。追跡期間が短すぎる

3 行目が、実務でいちばん判断を変える項目です。「大規模な研究が 1 件あるので決着している」という結論は、この枠組みでは成り立ちません。

この枠組みは提案されただけではありません。Robinsonらは試行し、後にAHRQの報告書が、ランダム化比較試験のシステマティックレビュー 50 件を対象として評価しています[6]。適用には手間がかかります。最初の論文は、1 件の報告書あたり平均 3.5 時間を要し、平均 14.75 件の研究の空白が得られたと報告しています[5]

引用をたどって、その空白がまだ残っているかを確かめる

空白を言い当てても、レビューが出てからの 1 年半のあいだに誰かが埋めていれば、その価値はありません。これを確かめる作業は文献検索の問題であり、最も裏づけのある方法が芋づる式の探索です。京都大学図書館機構も、文献収集の基礎として「参考文献リストから芋づる式に探そう」と案内しています[3]

Wohlinはこれを 1 文で定義しています[7]。英語ではsnowballingと呼ばれ、「ある論文の参考文献リスト、またはその論文への引用を使って、別の論文を特定すること」です。参考文献リストを使うのが後ろ向き、その後にその論文を引用した文献を使うのが前向きです。Wohlinの結論は、多くの人が想像するよりも強いものです。最初の検索方法としてこの方法を使うことは、データベース検索の補助ではなく、その代わりになりうる、と述べています。

空白の確認に使うのは前向きのほうです。その空白を示したレビューから出発し、それ以降にそのレビューを引用した文献をすべて並べ、自分のPICOSの記述に触れているものを読みます。 1 件も触れていなければ、勘ではなく根拠を得たことになります。

臨床以外の分野で使う 6 分類

4 つの理由は医学の分野から出てきたものです。著者ら自身も、介入以外を問う研究に対してこの枠組みがどう働くかは明らかでないと述べています。質的研究や経営学の文献レビューについては、Müller-BlochとKranzが、40 件の文献レビューをグラウンデッド・セオリーで分析して 6 つの分類を導いています[4]。矛盾する証拠、知識の欠落、行動と知識の不一致、方法論、評価の欠落、理論適用の欠落の 6 つです。

7 項目の分類も広く出回っています。もとは博士課程向けのワークショップ資料で、2023 年にAduとMilesが書籍の形で公表しました[1]。これは上の 2 つを統合したものであり、独立した根拠ではありません。分類の個数は著者の選択だと考えてください。 4 つ・6 つ・7 つは、同じ領域に対する 3 人の区切り方であって、3 つの発見ではありません。

たどる作業を 1 か所にまとめる方法

空白を確かめる作業は同じことの繰り返しです。レビューを見つけ、それを引用した文献をすべて出し、自分の記述と重なるものを開き、それぞれが何を埋めたのかを書き留めます。論文が 4 つのデータベースに分かれていると、この繰り返しに時間がかかります。

Litlasは、この繰り返しをまとめられるサービスです。16 の学術ソース(OpenAlex・Crossref・DataCite・OpenCitations・ROR/ORCID・arXiv・DBLP・OpenReview・ACL Anthology・PubMed・PMC Open Access・DOAJ・CORE・OpenAIRE Graph・Unpaywall・Common Crawl)を 1 回の検索で横断し、掲載誌や会議・著者・出版年で絞り込めます。論文の引用グラフを開けば、芋づる式の探索を両方向とも 1 つの画面で行えます。つまり、その論文が何を引用したかと、その後どの論文に引用されたかです。残した論文はその研究計画用のボードへ入れ、自分のメモとタグを付けられるので、「この 1 件はアウトカムの空白を埋めている」といった判断を論文に紐づけたまま保てます。ボードはBibTeX・RIS・CSL-JSONで書き出せるため、計画書を書く段階でそのまま使えます。

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覚えておくべき 3 つのこと

  1. 空白とは、すでにある研究が答えられていない問いと、答えられていない理由の 2 つを合わせたものです。理由を書かなければ、それは話題にとどまります。
  2. PICOSは、証拠がどこで足りないかを書くための軸です。4 つの理由は、なぜ足りないのかを書くためのものです。PICOSを「5 種類の空白」と呼ぶ解説は、この 2 つを混ぜたうえで、役に立つほうを落としています。
  3. 研究が 1 件あることは、結果が一致していることではありません。一致するかどうかが分からない状態であり、それ自体が 1 つの空白です。

参考文献

  1. Adu, Philip; Miles, D. Anthony. Understanding the Seven Types of Research Gaps. In: Dissertation Research Methods, ch. 5, p. 74-84. Routledge, 2023. https://doi.org/10.4324/9781003268154-5
  2. Clarke, Lorcan; Clarke, Mike; Clarke, Thomas. How useful are Cochrane reviews in identifying research needs? Journal of Health Services Research & Policy, 2007, 12(2), p. 101-103. https://doi.org/10.1258/135581907780279648
  3. 京都大学図書館機構「文献収集の基礎」https://www.kulib.kyoto-u.ac.jp/refguide/13202, (参照 2026-08-30).
  4. Müller-Bloch, Christoph; Kranz, Johann. A Framework for Rigorously Identifying Research Gaps in Qualitative Literature Reviews. ICIS 2015 Proceedings, paper 2. https://aisel.aisnet.org/icis2015/proceedings/ResearchMethods/2/, (参照 2026-08-22).
  5. Robinson, Karen A.; Saldanha, Ian J.; Mckoy, Naomi A. Development of a framework to identify research gaps from systematic reviews. Journal of Clinical Epidemiology, 2011, 64(12), p. 1325-1330. https://doi.org/10.1016/j.jclinepi.2011.06.009
  6. Robinson, Karen A.; Saldanha, Ian J.; Mckoy, Naomi A. Frameworks for Determining Research Gaps During Systematic Reviews. Methods Future Research Needs Reports No. 2. Agency for Healthcare Research and Quality, 2011. https://www.ncbi.nlm.nih.gov/books/NBK62478/, (参照 2026-08-22).
  7. Wohlin, Claes. Guidelines for snowballing in systematic literature studies and a replication in software engineering. In: Proceedings of the 18th International Conference on Evaluation and Assessment in Software Engineering, article 38. ACM, 2014. https://doi.org/10.1145/2601248.2601268